7th DAY




11月29日

 南国の朝が来た。一日の始まりに相応しい好天だ。 朝食を取って10:00まで海岸を巡る。今朝は久しぶりの早起きだった。 まばゆい程の青い海だ。昨日の夕方とは違い、今朝の海は素晴らしいトロピカルな風景を見せてくれた。 海岸には岩場の間に白い砂浜も少し開けていた。 岩場を進むうちに大きな難破船に遭遇したりもする。水が青い。やはり南国の海は素晴らしい。 輝く青い海と豊かな緑の中に、にょっきりと聳える幾つもの巨大な茶色い奇岩の織り成す雄大な景色を眺めながら、 陽気に岩々を次々と飛び跳ねるように歩いた。

 YHにもどり「ガラッピ」へのバスを尋ねると10:15で8分後だった。 ついているがバス停が分からない。近くの写真屋の女の子に聞くと、 ボールペンで手に地図を書いてまで丁寧に教えてくれた。この親切には感激した。 バスに間に合い、ガラッピへ着くと、岬の先端に建つ燈台に登る。ここは台湾の最南端だ。 真っ白な燈台の上からは眼下に紺碧の大海原がどこまでもまぶしく広がっていた。 この瞬間に、「いやー来て良かったなあ」としみじみ思ったなあ。 気分良く下に降りてバスの時刻を見ると、次は1時間後だった。 近くのお土産屋をぶらつく。お土産をいくつか買ったら、店でお茶とお菓子をご馳走になった。
 帰りのバスからの眺めもまた最高だった。青い海が眩しくどこまでも続いていく。 そんな美しい風景にひたすらカメラを向けている時であった。 ドキッとするような綺麗な気品のある美しい女性が途中から乗ってきた。 それが彼女との最初の出会いとなった。通路を挟んで俺のちょうど右側の席に座る。 左側には美しい海、右側には美しい娘と、左右キョロキョロとしてしまい、全く落ち着かなかった。 それ程きれいな人だった。終点の桓春で降りた。すると桓春から何と彼女も同じバスに乗った。 そのバスは台北行きの特急だったから、「きっと彼女は台北の女優さんだろうな」とも思った。 予定を変えて、話の種にこのまま台北まで一緒について行こうかなとさえ思った。 考えているだけで胸がドキドキしてきた。乗り換え地点の楓港が近づくにつれて、 正直本当にどうしようか迷った。すると何と、俺の思案をよそに彼女が先にバスを降りるではないか!  あわてて俺も降りる。そして喜んで彼女に声をかけた。

 「Are you going to Taiton?」
すると答えはこうだった。
 「x?&#%$#Y@*&$!、タイトン」。
そして彼女はさらに続けて、
 「はい、タイトンに行きます。」
 「エーーー、き、き、君は日本人なのかあ?」
と興奮のあまり口走ってしまった。実は彼女は日本語が少し喋れたのである。 嬉しさ百倍。まずはバスの乗り方から尋ね、取り敢えず台東までの切符を一緒に買ってもらった。
 彼女は陳玉平さんという。高雄で日本語を勉強したのち、墾丁の例のシーザーホテルに勤めているのだという。 今日は休暇で台東の手前にある実家へ帰るところだった。
 バスが来たら、やおら彼女が切符をかしてくれと俺から取り上げてしまった。彼女は窓口まで急いで走って行って何やら交渉し、 そのまま戻ってきて一緒にバスに乗った。そして息を切らしながら、切符と小銭をくれた。急行だったので少し安くなった差額だそうだ。その親切にまずは「謝謝」。
 その後バスの一番後ろの席に二人で座って、 2時間ほどずーっと一緒に楽しい時を過ごす。ノートでの筆談が多かったが、 間近で時折見せる彼女の笑顔がとおっても可愛らしいのだ。女優だと思ったのも無理はない。 それは、この世の中で女性の笑顔ほど美しいものはないということを改めて実感させてくれるものだった。 現代の日本の女性には少ないが、本当に心の底から込み上げてくる、 実に優しく美しく愛らしい可愛らしさなのだ。彼女が笑うたびに幸せな気持ちになってくる。 頭がしびれる感じ。まるでシンナーを嗅いだ時のような感覚だった。 変に興奮せず、緊張せず、ほのぼのと暖かい何ともいえない感じだったね。 歳は20くらいかと思ったが、何と俺と同じ23才だった。 俺が今日「花蓮」まで行く事を知ると、後で車掌に事情を説明してあげるという。
 残念ながら楽しい時間はいつも本当にあっという間に過ぎてしまうものである。 台東の少し手前で、彼女の降りる町が来てしまった。 (別れ際、俺のノートに何やら中国語でいっぱい書いてくれたけど、 意味が全然わかんない。あとで誰かに訳してもらおう。楽しみだな。)
 それで。。。彼女がバスから降りる時、彼女が車掌としばらく話しているのを見た。 きっと俺のことをよろしくと頼んでくれているのだと思い嬉しかった。 別れは辛かったが、俺達はお互いに見えなくなるまで手を振り続けた。。。

 そして、バスはその後まもなく終点の台東に到着する。
降りる時、車掌が俺の所にやって来て、俺に花蓮までの切符をくれた。 俺は事情を話してくれた彼女に感謝しながら、切符代を払おうと財布を出したのだ。
しかし何と。。。。。
何と車掌は金を受け取らない。切符の代金はもうすでに払ってあると言うのだ。
「エッ!」と叫んだまま、俺は呆気に取られて一瞬その意味がよく理解できなかった。
 車掌は続けて、台東から花連までの運賃は、さっき彼女が払ってくれた時点で正確にはわからなかったので、 お釣が渡せなかった、といって幾許かの小銭を俺に手渡した。
俺は彼女の優しさにようやく気がつき、打ちのめされてしまってしだいに涙があとからあとから溢れて出てきた。 彼女が降りる時、前の出口で何やら車掌に掛け合ってくれていたのを確かに覚えている。 しかしまさかそんなことまでしてくれたなんて。。。
今こうしていても、あの時の感動が込み上げてくるよ。。。。。。。。。

 台東の屋台で弁当を買った。屋台のおばちゃんに最初50元といわれて、せこく40元にまけさせたのだ。 でもおばちゃんは嫌な顔もせず、目の前で弁当箱にいろんな惣菜を詰めてくれた。 その弁当を手渡された時、ずっしりとしたその重みに驚いた。 中にはご飯や旨そうなおかずが山盛りにびっちりと詰まっていた。 「やっぱりこれ、本当に50元だったのかな?」  日本人はとかく金持ちと見られるから、外国を訪れた時は値を吊り上げられてボられる事が多い。 確かにそれは事実だろう。しかしそのせいで、知らず知らずそれを防ぐ癖がついてしまったのかもしれない。 少しでも安く値切る事に血眼になって、1円でも安く買った事を自慢したり、 いつでも相手を疑って常にせこく値切るというのは、 やっぱりちょっとあさましく愚かなことだよね。 台湾に来てから沢山の人々の優しさに出会って甘やかされたせいかもしれないけど、 良心的な人までも疑ってしまうというのは、やっぱり悲しいことだよね。 台東から花蓮までのバスの中で、おばちゃんから買った弁当を食いながら, 俺はおぼろげに今までの自分の浅ましさを考えてしまった。 何だか台湾に来てから、心がきれいに洗われたような気がした。


翌日へ

前日へ

台湾紀行 index へ戻る

国際理解の旅7