5th DAY




11月27日

 朝の4時にモーニングコールがあり、何とか起きられた。外はまだ真っ暗だ。早速駅へ行く。あまり人はいない。そこへ真っ赤な小さな汽車が入ってきた。するとどこから現れたのか、急に人が混んでくる。車内では、北九州から来たという日本人の老人の団体と一緒になる。照明が全くなく、真っ暗で超満員。とても変な気分だ。扉を開け放しにして全速力で走る赤い汽車。暗くて何も見えないのに、甲高い汽笛だけが異様に鳴り響く。ブラックホールに吸い込まれる様な、得体の知れないその不思議な気分は、まるでいつまでも続く夢の中にいるようだった。暗い山頂の駅に着く。早速さらに上の展望台に登る。ガイドブックに書いてあった通り、上は大変賑やかだった。寒いから茶店の中で、コーヒーとサンドイッチを食いながら6:30の日の出を待つ。待つこと1時間あまり。あたりが徐々に明るくなった。残念ながら雲が厚い。御来光は無理そうだ。その時、一瞬雲の切れ間から黄金の光が宙に浮いた。いっせいに大歓声が山全体に起こる。しかしそれっきりだった。太陽は再び雲の中へ消えたきり、二度と現れなかった。

 諦めて旅社に戻る。チャーリーさん一家と名残り惜しくお別れの挨拶をしてバスに乗る。本当は嘉義で乗り換えるはずだったが、チャーリーさんのアドバイスで高雄直通にした。眠りこけ、高雄に着いたら目が覚めた。着いてすぐ駅前の旅館に宿を取り、早速街を歩いてみる。今日は主にデパートを巡った。日本でいえば三越や高島屋に当たる、聞いたこともない地元のデパートが、何軒も結構手広く店を構えていた。中はどれも化粧品売り場で始まる日本のデパートと変わらないものだった。台湾で唯一と言われる地下街にも行ってみた。何のことはない、只のゲームセンターだった。高雄牛乳大王の本店にも行ってきた。それほど格別の感動はなかった。「木瓜ミルク」というものを注文した。結構うまかった。

 夕暮れ時、街を見下ろす「寿山」に登る。なんともいえない美しい光景だ。オレンジの光が無数に輝く港には、大きな船が何隻もシルエットを浮かび上がらせている。夕闇迫る港から時折聞こえてくる汽笛は、旅人の旅愁を誘う。何故か神戸にいるような、異国情緒の感覚に酔いしれた。そんな俺のいい雰囲気は、次の瞬間にぶち壊された。隣にやってきた日本人らしきオッサン数人が、俺が日本人だとは知らず、日本語でエッチな下劣な会話を始めたのである。それで一気に異国情緒は興冷めさせられて、腹が立ったので、「アホが!」といって全力で山を駆け降りて逃げた。
 旅館に戻って一休みした後、再度街に出る。するとどうだろう。10:00になった途端に、辺りのデパートや商店が一斉に閉まりだしたのである。気が付くと俺はいつのまにか、同じ色の制服を着た女性達の洪水の中にいた。バス停には、同色の制服姿のねーちゃんたちで溢れかえっていた。日本なら、さしずめ近くで高校の学園祭でもあったのだろうかと思う光景だった。しかしここは台湾。彼女達はみんな、デパートガールだった。そういえばそれは昼間見たことのある「大立百貨店」の黄緑色の制服だった。制服姿のままデパートガールが、次から次へと裏口から外に吐き出されている。おや、向こうでは「大統百貨店」の紺色の制服姿が、まるで蜘蛛の子を散らすように発散しているぞ。おや、今度はオレンジ色の制服姿がバイクに跨って、交差点の向こうから大軍でやって来るぞ。あるものはバスを待ち、あるものはバイクを疾走させ、あるものは彼氏のバイクの後ろに乗ったりして、大音響とともに色とりどりの制服姿が戦場の如く入り乱れた。実に圧巻の光景だった。夜10時を迎えた、人口約200万の大都会の都心交差点は、さながら夏の夜に電灯に群がる色とりどりの夥しい数の虫達の乱舞のような光景を呈した。不思議なものを見た。俺の脳裏では、緑やオレンジや水色の虫達の羽音がいまでもこだましている。


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国際理解の旅5