11月25日
昨夜は蚊の来襲に苦戦した。朝になり、カーテンを開けると外はくもり。フロントで、台北に戻った日の部屋の予約を入れてYHを後にする。駅で切符を買って、「台中」到着の時刻を計算すると1:30だった。ここで初めて、「そういえば今朝は朝寝坊したんだっけ」と気がつく。急行で約3時間、途中で例の赤い服の列車スチワーデスから弁当を買った。昨日はまぶしく見えた列車スチワーデスも、今日は何故か弁当売りの只のおねーチャンにしか見えなかった。弁当は日本語と同じ「BENTOU」で通じた。排骨飯という弁当で、中身はとんかつの天ぷらみたいなのが一枚ドーンと、ご飯の上に乗っているというシンプルなものだったが、味は結構いけた。台中では14:00のバスに乗ることにしたため全く時間がなく、この街で結局できたことは、デパートに行ってトイレを探してクソしたことだけだった。ついでに缶ジュースを買ったら、中に黒砂糖の味のする寒天がいっぱい入っていて、なんだか不思議な味がした。
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日月タンまでのバスも長かった。4時JUSTに日月タンに到着。有名な観光地の割にはターミナルが質素だったので、本当にそこに着いたのかどうか初めは半信半疑だった。だがバスを降りると、いきなりおばちゃん達による日本語での宿の勧誘攻撃に見舞われて納得した。俺がYHに行きたいと旅人風に言うと、おばちゃんは上手な日本語で、「もうそのバスはないから」と熱心に別の宿を勧める。しょうがねえなあと、しぶしぶ自分でバスの時刻表を見てYH行きのバスに乗る。バスは、中学生らしいガキを満載して、急カーブが連続の山道を全力でとばす。窓の下には湖との境にガードレールもない崖が広がっている。おかげで冷や汗を沢山かいてしまった。
大きな「歓迎」というYHの看板の前で降ろしてもらう。あまりにも静かなたたずまいのその建物に、初めは誰も泊っていないんじゃないかと思ったが、裏の駐車場には、でかいバスが10台以上も停ってて、何だか嫌な予感がした。YHの中の受付には、ビックリする様な清楚な美人で、しかもすらりとした長身のモデルのような、なんでこんな山奥にいるのか本当に不思議な、もったいない程の女性がいて、あろうことか俺は、その美女から満室を言い渡される羽目になってしまった。もしも今晩泊れたなら、その美しいひとと仲良くできるはずだ、と思ったから、一生懸命必死で熱弁を振るって、これまでどれだけ苦労してここに辿り着いたかの経緯を説明して、なんとか同情を誘い、廊下でも倉庫でも何処でもいいから一晩泊めて欲しいと必死で懇願した。俺の不純な動機をよそに、彼女はいろいろ走り回って掛け合ってくれたけど、突然折悪く、喧騒とともに団体の観光客の大軍がチェックインしに来て、立ち所に俺どころではなくなってしまった。同時に、YHの責任者らしき山親爺が現れて、威厳ある態度で有無を言わさず「NO」を宣告されてしまった。それ以上頑張る気力は俺には残っていなかった。結局最終バスでまた、もとのターミナルに戻るはめになる。でも最後に、最終バスをフロントで待つまでの間、彼女が落胆した俺の隣に座ってくれて、いろいろ安いホテルとか観光ポイントを一生懸命片言の英語でアドバイスしてくれた優しさには感激したなあ。今もドキドキしている。ああ、明日もう一日ここに泊ろうかなあ。もう一度お会いしたいと思っております。
非常に残念な気持ちと、非常に甘い想いとの複雑な気分でターミナルに戻ると、例の嘘つきおばちゃんに会ってしまった。YHに泊るといった手前、意地でもそのおばちゃんの世話は受けない。何軒か自分で廻って300元の宿に落ち着いた時にはもう9時を過ぎていた。隙間風の入る安宿で、彼女の淡い香水の匂いを思い出しながら、いまこうして筆を執っている。とにかく今日は、日月タンとはどんな所なのか知りえなかったが、俺はこの湖が何となく好きになったようだ。